Retrouvailles
もうそう呼ぶべきではないのかもしれないが、抱え込んだ時間のぶんだけ、何度だって呼びたい。老い先短い年寄りの我儘だ、二人も許してくれるだろう。
乞われるままに家族の話をして、乞うて二人の話を聞く。覚えている限りの想い出を語り合いもした。そうして瞬く間に時間は過ぎ、とうとうこれ以上引き延ばせなくなった。この姿の二人がエスタに留まることは、情勢的に見てもあまり好ましくない。いつか問題が解決するときがくるだろうか。それまで待っていられるだろうか。
最後になるかもしれない。焦燥感に駆られ、去り行く背中を呼び止めた。
「なあ……聞かせてくれ。これは、本当に、俺の声か?」
世界の神秘を尋ねるような心持ちであったのに、明日の約束を語るさりげなさで、ラグナは答えた。
「その顔にゃ、ちょっと若すぎる気もするけど」
「傷つけた時点の器官をベースにしたらしいからな……」
「でも、オレにとっちゃ……なつかしいよ」
記憶の曖昧さを嘆いていたラグナが、自らの想い出を信じてくれた。それだけで、どんな痛みさえも報われる。
真実の証明はそれだけで十分だ。でも、この数十年間、見たかったものがあった。どうしても聞きたかった。ウォードは期待と希望に満ちた眼差しで、その姿を見上げた。
昔と同じようでいて、触れたら切れてしまいそうな鋭さは消え、繊細なやさしさが際立つようになったと思う。生きるために命をかけて戦わなくてはならなかった時代から解放されたからだろう。
ゆっくりと歩み寄り、椅子のアームにかけられたウォードの手をそっと擦って、
「ひとときも忘れやしなかった。あんたの声を、ずっと待っていたよ。ありがとう」
キロスは穏やかに笑った。その言葉ひとつで、ウォードを縛り続けた後悔の輪を溶かしてしまった。救われた気がした。
かたく絡んだ氷はほどけ、苦しみは尽きた。長い冬が終わる。
おわり