Ellone

 私の一番古い記憶は、暗い食器棚の中、ひとすじの光、震える手を伸ばしたレイン。
 私の一番幸せな記憶は、翠のひとみが私を見つめる瞬間を、枕元で心待ちにしていたとき。
 こぼれてゆく記憶を拾い集め、繰り返し思い出している。
 その声で、もう一度名前を呼んで。私はエルオーネ。
 
 
 
Ellone
 
 
 
「おねえちゃんは、いっしょにこないの?」

 船を降りるときになって、サマンサはまた、私を見上げて聞いた。もう何度も言い聞かせたことだけれど、踏ん切りがつかないみたい。
 私は膝を折って、濁りなく澄んだその目を覗き込んだ。

「うん、サミーが一人で行くんだよ」
「おねえちゃん、いないの、やだなぁ……」
「大丈夫。サミーのこと、いっちばん大事に想ってくれるお父さんとお母さんが待っていてくれるからね。いっぱい幸せになってね。サミー、大好きよ」

 サマンサは何度も振り返りながら、手を引かれて行ってしまった。私はそれをタラップの上から見送った。彼女を乗せた車が走り去り、見えなくなってしまってから、船は静かに岸辺を離れた。
 こんなふうにさよならしたことは、今回が初めてじゃない。子どもたちを幸せにしてくれる家を探すことに、まま先生は力を惜しまない。十分に信頼できると確信した相手には、こうして養い子を託すこともあった。どんな子どもたちも、いつかは船から降りる日が来る。その日が早くやってくるか、引き延ばされるか。ただそれだけのこと。
 私は彼女たちとは違って、たぶん、ここから出ていくことはない。もう陸を離れて何年経ったかしら。土の匂いと森のさざめきは、潮風の匂いと波の音にかき消されて忘れてしまった。

「エルオーネ、中に入りましょう。雨が降りそうよ」

 甲板に立ち、遠ざかる陸地を見つめている私に、まま先生が言った。

「もう少しだけ」
「……一緒に行きたかったでしょう。せめて一日だけでも、町で過ごさせてあげたかった」
「私のためにしてくださってるんですもの。ありがとうございます、まま先生」

 まま先生は、そのきれいな顔を悲しそうに顰めた。

「ごめんなさいね……あなたのためという言葉で、あなたに呪いをかけてしまったのね」
「いいえ。そんなことないわ。さあ、おやつの準備をしなくちゃ」

 ここでの生活は好き。騒がしくて、めまぐるしくて、明るくて、楽しい。子どもたちは可愛くて、まま先生はやさしい。泣き虫で甘えんぼのスコールを思うときは、胸に刺さった棘がずきずきと痛む。でも、船を降りられないこともよくわかってる。
 どうやら私には生まれつき奇妙な力があるらしい。どうして私なのかはわからないけど、いらないといって捨てられない。いろんな人がその力を求めて追いかけてくる。だから、ずっと逃げている。いつまで? もしかしたら一生? 覚悟という言葉さえ現実味がない。同じような毎日を繰り返して、気づいたら年を取って、ここで死ぬんだわ。
 そんなふうに空気みたいに漂う私を、ただひとつ駆り立てるものがある……レインが死んだとき、私はその手を握っていた。うわ言みたいにその名を呼んでいたレインが、最期の息で、私を見た。その瞬間、レインのひとみは光を帯びて、棚に隠れた私を助けたときのあの声で言った──どうしたの? エル、大丈夫よ。
 村中の人が集まって、早すぎる死を悼んだ。スコールはおとなしい赤ちゃんで、みんなが泣いているのをきょとんとした顔で見つめてた。悲しみの涙は、やがて怒りに変わった。あの男と関わったせいで。あの男さえ来なければ。すべての苦しみの元凶、ラグナ・レウァール!
 ちがう! 確かにレインは幸せだった。その幸せを壊したのは私。私がいなければ、おじさんは外の世界に戻らなかった。私を助けるためにレインから離れてしまった。二人を引き裂いたのは私。スコールから両親を奪ったのも私。お父さんとお母さんを死なせたのも私。私、私、エルオーネ、わたし。
 そのときからずっと、ある考えにとりつかれている。誰にも言ったことがないし、言うつもりはない。聞かされたら、みんな身勝手だって言うだろうから。
 どんなに咎められても構わないわ。その結果、恨まれて、遠ざけられて、ひとりぼっちになってもいい。私は私の我が儘でそうするの。
 
 
 
 はじめはそんな力があるってことも、よくわかっていなかった。知ったのはあの機械の国で、ふしぎな博士に教えてもらってから。私の力は過去に心を飛ばす力。過去にいる誰かの頭の中に、今いる別の人の意識を間借りさせられるんだって。頭の中に入った人の力は、入られた誰かに上乗せされる。強く願えば、過去の相手にメッセージを伝えられる可能性もある。
 あの日、おじさんは、私のためにエスタ兵と戦って負けてしまった。つまり、あの日のおじさんに強い誰かを重ねれば、おじさんは戦いに負けなくなる。もしそれが叶わなくても、何とかして村を離れないでって伝えればいい。私は大丈夫。あの博士は私を使って研究をしたがってた。だから私はエスタにいても殺されたりしない。おじさんやレインと離れるのはさびしいし、スコールと会えなくなるのも悲しいけど、レインの幸せのほうが大事。おじさんとレインとスコール、三人で幸せに暮らしてほしい。
 私にとって、暗闇から助け出してくれたレインは誰より大切な人だから、その願いをどうしても叶えたかった。それすらできないとしたら、私はなんのために生まれてきたの? こんな力を持って、みんなを不幸にしただけなのはイヤ。
 そうすると決めてから、私はこっそり練習を始めた。自分の意志で力をコントロールするために。
 自分一人でも過去に飛ぶことはできる。ただ、誰かを連れて行くほうがうまくいくみたい。一度、ほんの少しだけ過去のおじさんの中に入れたときがあって、泣きたくなるほどうれしかった。おじさんの声、おじさんの視界、おじさんの手……
 知らない誰かを知らない人へと送り込むことはできない。試しに町で人気だという映画俳優に入ってみようと思ったけど、まったく駄目だった。手探りでよく見えなくて、力を使う取っ掛かりがない感じ。
 動物に入ることはできる。何度か頭の上を飛んで行く鳥に入ってみた。自由で、放たれていて、すばらしい体験だった。でも陸地に近づくにつれ、切なくなって抜けてしまった。
 相手の意識を拾って自分ごと過去へと飛んで行く、今と過去とを繋ぐこの力のことを、接続と呼ぶことにした。誰かを連れて行く感覚は、最初からなんとなく掴めた。ただ、周りの人で練習していてはそのうち気づかれてしまう。何よりまま先生に知られてはいけない。まま先生は善い魔女だけど、私のしようとしていることを知ったら、きっと止めるはずだから。
 慎重に、時と場所と相手を選んで力の使い方を覚えた。練習台にされたと知ったら、みんな怒るでしょう。ごめんね。それでも私は諦めない。
 
 
 
 チャンスが来たのは、船に乗ってから十年と少し経ったころのこと。それはチャンスというよりも、危機だったのだと思う。まま先生に未来の魔女が《入って》きて、間一髪で、私はバラムのガーデンに預けられた。魔女の目を警戒して、誰かと接することは許されなかった。でも、私は知っている。ここにスコールがいることを。
 スコールならきっとわかってくれる。あの日の運命を変えることを受け入れてくれる。だって、そうすれば本当のお父さんとお母さんと一緒に暮らせるのだもの。
 スコールはSeeDになるという。正規軍からも一目置かれる傭兵部隊。スコールをあの日のおじさんの中に連れていければ、おじさんはウィンヒルから旅立たずに済む。そう信じて、何度も何度も試した。スコールを連れておじさんに接続することにも成功した。何度だってできた。それなのに、何故かあの日に戻れない。
 戻れない! その前とその後には接続できた。日付も時間もちゃんと覚えてる。ひとつひとつ確認して、絶対に失敗しないように……それでも駄目だった。どうしても、どうしても出来なくて、気が狂いそうだった。
 ガーデンから再び海の上に戻され、しばらくして、船は予期せぬ戦闘に巻き込まれた。私は子どもたちとともに船の中で息を潜めていた。襲ってきたのはガルバディア軍のようだったから、未来の魔女がとうとう私を見つけたんじゃないかと、みんな怯えていた。薄情な私は、心配してくれるみんなを裏切って、違うことばかり考えていた。どうしたらあの日に戻れるの? 何か足りないものがあるの? 私のこの力は、なんのためにあるの?
 私たちの船は、あわやというところでエスタの巡視艇に助けられた。私からすべてを奪った国。甲板に出たのは、仇の顔を見てやろうと思ったからか、それともそこに何かを感じたからか。結果として、それは運命だった。

「……エルオーネ?」

 その人は信じられないというふうに私を見た。そうでしょう。最後に会ったのは、私が五つのころ。あれからもう十七年経った。小さかった私は、体だけは大人になった。

「キロさん! 会いたかった! ねえ、おじさんはどこ? 一緒にいるの?」
「この船にはいない。でも、居場所はわかるよ。君のことを知ったらすぐに会いたがるだろう」
「話したいことがいっぱいあるの。ううん、話さなくちゃだめ」

 そのときの私は、何故だか、おじさんに会えばすべて解決するような気がしていた。あの日に戻れない理由がわかって、あの日に戻ってやり直せる。なんの根拠もないのにそう思っていた。
 自分では気づかなかったけれど、きっと私はどこかおかしく見えたんだと思う。少し話そうと言って人払いをして、キロさんは私を船室へと連れて行った。レインが逝ってしまったこと、二人の子どもが生まれたことをキロさんは知っていたから、孤児院に引き取られてからの話をした。あのことについては言わないつもりだった。でも、キロさんは静かに、辛抱強く、私から話を聞き出してしまった。
 本当は誰かに聞いてほしかったのかもしれない。身勝手とはいえ、秘密にしていることはつらかった。私は白状した。キロさんは、おじさんが一番に信頼している友だちの一人だ。おじさんの幸せを誰よりも考えてくれるはず。私の目的にも、きっと同意してくれると思ったのだ。
 接続の力を使って過去に干渉して、歴史を変えようとしていること。あの日、おじさんがエスタ兵との戦いに勝って、ウィンヒルを離れないようにすること。レインとスコールと一緒に、ずっとずっと幸せに暮らせるようにすること。私の願いはただそれだけで、それ以外のことは望まない……どうでもいい。
 私の話を聞き終えたキロさんは、しばし考え込んでいた。それはとても長い時間で、私はじりじりしながら言葉を待っていた。正確に言えば、「君がしようとしていることは正しい、君に協力する」という言葉を。
 やがてキロさんは、深い色した眼差しで、私を見つめて言った。

「エルオーネ。まずはじめに、私がこれから言うことは、君のしようとしていることを否定したり、君を止めようとしているのではないということを理解してほしい。君はまったく自由だ」

 難しい言い回しだけれど、それは私の求める答えと噛み合わないものではなかった。私は黙って頷いた。

「それを承知の上で聞いてほしいんだ。エルオーネ。彼はあの後、多くの人に望まれてエスタの大統領になった。彼の存在によってエスタは大きく変わり、彼なしでは一日たりとも国が成り立たなくなった」
「…………」
「そして、彼はあれから一度も国から出ていない。それがどういうことかわかるかい」
「……スコールや私を探してはくれなかったのね」
「探していたよ。私や、他の部下たちが。だが彼は行かなかった。個人であることより、社会を選んだんだ」
「不幸だわ」
「ある意味ではね。彼は何も変わっていない。しかし多くのものを吸収して、巨大になってしまった。もし過去が変わるとしたら、今存在している彼はどこに行くのだろうね。彼のいないエスタはどんな国になっているだろう」
「……知らない。どうなったっていいわ。私は、おじさんがレインと一緒にいてくれさえすればいいの。それだけを願って生きてきたのよ」

 そう言いながら、あれほど強固だった自分がぐらぐら揺らいでいるのを感じた。いいえ、強固だったなんて、おこがましい。私は誰にも言わなかった。みんなに否定されるのを恐れて、一人でこっそり成し遂げようとしていた。
 だって、おじさんは望んでいると思っていたのだもの。レインがあれほど求めたように、おじさんも求めていた。私の力なら、きっとその望みを叶えられる。絶望を希望に変えられるって、信じていたのだもの。
 
「そうだよ、エルオーネ。それは君の望みだ。彼でも、レインでも、二人の息子でもなく、君だけの望みだ。そして君は力を持っている。だから私は止めないし、否定もしない。君が過去を変えたいというのなら、そうすべきだ」
「私はやり遂げるわ」
「それでいいんだ」

 この上なくやさしい声で、キロさんは私の足元を崩してしまった。否定をしないことで、私の頬を打った。望んでいるのは私だけだと。
 ……違う、レインは望んでいた。ずっと呼んでた、ラグナ、ラグナって。私の手がもっと大きかったら、おじさんみたいな大人の手だったら、レインはそばにおじさんがいる夢を見られたかもしれないのに。私は何も役に立たなかった。レインを不幸にした。つらくて、悲しくて……救われたかったのは私。レインを不幸にした自分から逃れたかった。過去を変えれば、つみびとの私はいなくなるから。

「だって……」

 何か言い返してやりたくて、必死に言葉を探した。せめて「そうだね、私も望むよ」と言ってほしかった。

「だって、おじさんだって、ほんとはそうしたかったはずよ……二人は愛し合ってたんだもの……帰りたいって思ってるはず。レインのそばにいたかったって。そうじゃなかったら……レインの存在って、なんなの? 死んでしまったら、それで終わりなの?」
「レインは」

 キロさんは穏やかな中に、ちいさな痛みとほほえみを混ぜ込んでいる。

「彼が生涯でただ一人愛したひとだ」
「愛しているのに、過去を変えたいと思わないの?」
「エルオーネ。人は愛によって動かされるものだ。君や、レインや、私のようにね。ただ、この世には愛では動かせない人間が存在するんだ」
「なんだったら動かせるの?」
「運命だよ」

 私の負けだってわかってた。もう息も絶え絶えで、いっそ倒れてしまったほうが楽になれると思った。でもそれを認めてしまったら、私の二十年が全部無駄になる。

「私は、その運命を変えるのよ」
「君のしたいようにすればいい」
「できないって、高を括ってるのね。言ったでしょ、私は絶対にやってみせる。あの日から全部やり直すの」
「わかってる」
「おじさんをエスタになんか行かせないわ。よその国のことはよその国でなんとかすればいいのよ。おじさんは、レインとスコールと、ウィンヒルで幸せに暮らすの」
「それじゃあ、君はどこに行くんだ?」
「私はいいの、私なんか」
「君がそこにいなくては駄目だ。君がその力で過去を変えるなら、それは君の幸せのためでなくては」
「誰かを幸せにできなくちゃ、幸せになんかなれないの!」

 思わず叫んでいた。歯を食いしばって耐えていた。
 でも、その細くて大きな手が私の頭を撫でて、肩を抱いてきたとき、とうとう耐えられなくなった。
 私は一度も泣かなかった。レインが死んでしまったときも、みんなが泣いているのに泣けなかった。レインのために泣く資格がないと思っていた。スコールと離れ離れになるときも、嫌だなんて言ったらまま先生に申し訳なくて、涙を堪えた。 

「見つけてあげられなくてすまなかった。エルオーネ、本当にすまない。長い間つらかったな」
「平気だもん……わたし、おねえちゃんだから……」
「私にとっても、きっと彼にとっても、君はまだ五歳の小さな女の子だよ。やり直せるなら、君が大人になってゆく姿を見たい」
「……わたしが過去を変えたら、キロさんはどうするの?」
「そうだな、きっと何も変わらないな。相変わらずウォードと一緒に彼のそばにいて、面白おかしく暮らすだけだ」
「エルとも遊んでくれる?」
「もちろん」

 それ以上は言葉もなかった。子どものように泣きじゃくりながら、擦り切れて消えてしまったはずの、幼い日のことを思い出していた。お母さんに言われて、棚の中に隠れた。銃撃の音、悲鳴、煙の匂い、そして静けさ。見つからないよう、声を上げないように手を齧って震えていた。レインが扉を開けてくれて、大丈夫よと抱きしめてくれて、とても安心した……そんな日のことを。
 かつてあれほど苦しめられた国は、広々としていて、乾いた風に澄んだ空がきれいだった。私はルナゲートに連れられていって、おじさんに会うために、宇宙に行くことになった。なんだかいろんなことがありすぎて、一生分の今を生きているみたい。

「向こうで目覚めたら、そばに彼がいるから」
「……キロさんは行かないの?」
「こっちでやらなくてはならない仕事があるからね。何も心配ないよ。ほんの一瞬眠るだけだ」
「氷漬けになって?」
「ついでに化石の気分が味わえる」
「おもしろそう」

 心配なんかしていなかった。わからないことは世界に溢れていて、それを全部理解することなんてできない。私が知りたいのは……今でも知りたいのは、どうしてあの日に戻れないかということ。私の願いはどこに向かってゆくのかということ。
 目が覚めたとき、そこにはおじさんがいて、顔をくしゃくしゃにして抱きしめてくれた。夢にまで見たおじさんは、ちょっと老けて、くたびれていて、白髪もちらほら。だけど、大好きなひとみも、ころころ変わる表情も、わくわくするような声も、あのころのまま。自分の体が大人になっているのが不思議。十七年も離れていたなんて信じられないくらい。
 話さなくちゃいけないことがたくさんあった。キロさんは何も伝えていないと言っていたから、私の言葉で、私の見てきたことをひとつずつ話した。その間、何度も誰かがおじさんを訪ねてきた。「閣下、ご報告します」「閣下、この件について変更が」「閣下、頼まれていました……について」──その度におじさんは私との話を一旦置いて、みんなの話を聞いたり、みんなに指示をしていた。
 キロさんのいっていたことが、ようやくわかった。大好きだよって抱きしめてくれたおじさんは、今でもおんなじように抱きしめてくれるけれど、それはおじさんのほんの一部。村をパトロールして楽しげに報告していたおじさんも、レインと肩を並べて小さなキッチンで料理をしていたおじさんも、ベッドからしょっちゅう落っこちて泣きべそかいてたおじさんも、みんな、おじさんの一部。
 おじさんは変わらないまま、巨大になった。そうして、運命に固定されてしまったのね。私があの日に戻れないのは、変えられないから。変えてはならないから。私がどんなに変えようとしても、運命がそうあろうとする限り、おじさんはこの国に来てしまうから。
 いいえ。
 ほんとうは、私には、そんな力はなかったの。
 
 
 
 宇宙にそんな概念があるのかはわからないけれど、その夜。私はベースの一室で、夢を見た。おじさんが映画に出てたなんて知らなかった。あがり症で、ちっとも台詞が言えないのがおかしくて、意識の中で笑ってた。それから、まま先生に会った。おじさんは私を探してる。私のこと、かわいいって……うれしい。
 私の願いは、花火の終わりみたいに、きらきら光って消えた。
 ごめんね、スコール……また会えたら、そのときに、ぜんぶ話すね。ごめんね。
 
 
おわり